婚姻費用分担に関する合意の方法:「書面>口頭・SNS」
1 「婚姻費用分担請求」「婚姻費用分担義務」とは。
民法第760条は、「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。」と定めています。
例えば別居した夫婦の一方が、その分担義務を果たさない、平たく言えば生活費を支払わない場合、他方は、「生活費を支払ってください。」と求める、つまり婚姻費用の分担を請求することができます。これが「婚姻費用分担請求」です。
ちなみに、婚姻費用分担義務は、「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」との定め(民法第752条)に基づくものですが、その性質は、「自分(義務者)の生活を保持するのと同程度の生活を保障すべき」とする「生活保持義務」と解されています。
2 手続き
婚姻費用の分担については、まずは夫婦間で話し合いをすることになりますが、話し合いがまとまらない場合、請求する側は、家庭裁判所に対し、婚姻費用分担を求める調停(調停が成立しない場合は審判)を申し立てることができます。
なお、調停の申立先裁判所は、相手方(義務者)の住居地を管轄する家庭裁判所です。したがって、別居後、義務者が遠隔地に転居した場合、注意が必要です。
3 本題です:合意形成の方法
ところで、婚姻費用分担に関する具体的な合意(金額、支払期限など)が出来る場合、その方法は、法的には「口頭」でも「メールやSNS」におけるやり取りでも有効です。
しかし、これらの方法では、後日、夫婦の一方から「そのような合意はなかった。」、あるいは「合意はあったが、金額が異なる(もっと高い、あるいは安い)」などと争われた場合に困ってしまいます。
具体的には、まず「口頭」で合意した場合、合意の存在を裁判所(第三者)に証明するのは困難です。
また、「メールやSNS」におけるやり取りでの合意の場合でも、やり取りの経緯や内容によっては、合意の存在が認められないことがあります。
この点に関する裁判例として、日本加除出版株式会社「家庭の法と裁判 50号(2024年6月号)は、東京高裁令和5年6月21日決定を紹介しています。
この事案は、妻が夫に対し、婚姻費用分担を求めたのに対し、夫が「メッセージのやり取り」により「月額5万円とする合意があった。」と主張した事案です。
原審裁判所はその合意を認めたものの、本決定は、妻が「5万円で承諾しました。」などと回答する一方で、「2人分の養育費…今後控訴人(妻)が働けるようになるまでの生活費…をもらえるのであればもう(夫婦の)再構築は望みません。」「金額については私も分からないので、専門家と相談させて頂きます。」などとも伝えていることなどの事情から「確定的な合意があったと認めるのは相当でな」いと判断しました。
そこで、婚姻費用分担(養育費など離婚する場合の条件も同じです。)に関して話し合う場合、合意の存在やその内容を明確にする意味でも、また記録化することで後日の紛争を回避する意味でも、「合意書」など書面化することを強くお勧めします。
当事務所は、婚姻費用分担や離婚に関するご相談もお受けしております。
(弁護士 小山 明輝)