最高裁判決紹介:「花押」による遺言書は無効【最高裁第二小法廷平成27年(受)第118号判決

 本日、自筆証書遺言(つまり直筆で書く遺言書)に必要な「押印」に関し、最高裁判所が、いわゆる「花押」は民法第968条1項の定める「押印」の要件をみたさず、このような遺言は無効であるとの判断を下しました。

 日本の法律(民法)では、遺言(遺言書)を作成する場合、幾つかの様式を定めるとともに、様式ごとに一定の「要件」を課しており、このような様式・要件を満たさない遺言(遺言書)は、少なくとも法律上(民法上)有効な遺言(遺言書)と認められません。

 冒頭で紹介した判決は、このうち民法第968条で定める「自筆証書遺言」という遺言に関するもので、「花押」が、同条1項の定める「押印」に該当するか否かについて、消極的な判断を下したものでした。

 ~民法第968条1項:

  自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

 花押というのは、平たく言えば、「署名の代わり」に使用される記号ないし符号です。

 もっとも、あるいは時代劇を好きな方はご存知かもしれませんが、「署名」というよりも「印章」に近い形態のものもあります。後者ですと、印鑑による印影との違いは、まさに「印鑑」を押したものか、それとも自筆なのか、という点程度と言って良いくらいです。

 では、何故、最高裁が自筆証書遺言にいうところの「印章」と認めなかったかというと、

① 民法が押印をも要するとした趣旨は,遺言の全文等の自書とあいまって遺言者の同一性及び真意を確保すること、及び

② 重要な文書については作成者が署名し、その名下に押印することにより、文書の作成を完結させるという我が国の慣行ないし法意識に照らし、文書の完成を担保することにあると解される(最高裁昭和62年(オ)第1137号平成元年2月16日第一小法廷判決・民集43巻2号45頁参照)

③ (しかし、)我が国において,印章による押印に代えて花押を書くことによって文書を完成させるという慣行ないし法意識が存するものとは認め難い。

④ ①~③より、花押を書くことは,印章による押印と同視することはできず,民法968条1項の押印の要件を満たさない

との理由によるものでした。

↓裁判所ホームページ

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/930/085930_hanrei.pdf

以上によれば,花押を書くことは,印章による押印と同視することはできず,民
法968条1項の押印の要件を満たさないというべきである。

 しかし他方、自筆証書遺言で用いる「押印」は、必ずしも「実印」であることを要せず、認め印でも足り、また「拇印その他の指頭に墨・朱肉等を付けて押印することをもって足りる」とされています。

 そうすると、最高裁判所が挙げた上記理由のうち、①「遺言者の同一性及び真意を確保すること」に関して言えば、「花押」とどの程度違うのか、という点について疑問なしとしません。

 また、②及び③についても、「我が国」の歴史をどの程度遡って考えるかによって、判断が異なるようにも思われます。

 このように考えると、事例判断だったかもしれませんが、「花押」を「押印」に該当すると判断した一審、二審の判断も、それなりに合理性があるように思います。

 もっとも、このように遺言書が無効になった場合、遺された遺族に与える影響は非常に大きなものがあります。

 そこで、弁護士としては、できれば自筆証書遺言ではなく、公正証書遺言を作成することをお勧めしたいところです。。。

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弁護士 小山 明輝