参院選後一考~18歳選挙権と政治活動・選挙活動~
2016年7月10日(日)は、第24回参議院議員通常選挙の投票日でした。
この選挙は、公職選挙法の改正により選挙権の要件が「日本国民で満18歳以上」となったことにより、18歳、19歳の方々も投票できるようになった最初の全国的な国政選挙でした。
ちなみに「満18歳」に達したかどうかは、投票日時点において判断されますが、年齢については、少しややこしいですが、「生まれた年の翌年の誕生日の前日」に満1歳になるとされています(年齢計算ニ関スル法律1項及び2項、民法第143条参照)。
つまり、「投票日の翌日が満18歳の誕生日」である方も選挙権を有することになります。
ところで、国政選挙や自治体における選挙において投票するのであれば、国や政治の基本的原理ないし仕組みについて学んでおいた方が良いでしょうし、国民、あるいは地域住民の代表者を選ぶ以上、自分なりの政治的意見や信条を持つことが望ましいのではないかと思います。
そこで、関わりを持つのが「政治活動」と「選挙活動」の問題です。
まず、公職選挙法では、選挙権の年齢を満20歳から満18歳に引き下げた一方、選挙活動の禁止年齢も同様に満20歳未満から満18歳未満に引き下げました。
そうすると問題となるのは「満18歳」の方の選挙活動及び選挙運動の自由ですが、教育基本法は次のように定めています。
14条(政治教育)
1項:良識ある公民として必要な政治的教養は、教育上尊重されなければならない。
2項:法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。
つまり、「政治的教養」は大切だけど、他方、学校に対し、特定の政党を支持し、又は反対することを目的とした政治教育その他政治的活動はダメだよ、と定めているのです。
しかし、ここで気をつけたいのは、この法律の主語が、教育を受ける児童、生徒、及び学生側ではなく、教育を実施する学校であるということです。
そうすると、少なくとも教育基本法上は、例えば高校生が、高校内で少なくとも政治活動を行うことは何ら禁止していないように解されますし、満18歳に達した生徒が学内で選挙活動を行うことすらできそうです(公職選挙法上禁止される選挙活動は別ですが)。
現に総務省のホームページには、「…選挙運動や政治活動について、高校生として注意すべきことは何ですか。」との問いに対し、
「選挙運動や政治活動については、学校においては高校生として校則等の決まりを、また選挙との関係では公職選挙法等の法律を守る必要があります。」
「校則については、教育基本法など上位の法令等も踏まえながら、各学校において定められるものであり、教員の指導をよく聞いて、それを踏まえた行動をとってください。」
とのみ記載されています。↓
http://www.soumu.go.jp/main_content/000382032.pdf
ところが、その一方で、文部科学省は、
「選挙権年齢等が18歳以上に引き下げられることに対応し、高等学校における政治的教養の教育を充実させるとともに、政治的活動等に対する適切な生徒指導を実施するため」
と称し、
「高等学校等における政治的教養の教育と高等学校等の生徒による政治的活動等について」と題する通知(平成27年10月29日初等中等教育局長通知)を発出しました。
この通知では、「高等学校等の生徒の政治活動等」について、構内においては、通常の教育活動(部活動等も含む)はもちろん、放課後や休日等であっても、学習活動への支障のほか「学校の政治的中立性確保の観点」等から、前者については禁止、後者については制限又は禁止する必要があるとしています。
また、「放課後や休日等」に「学校の構外」で生徒が行う選挙運動や政治的活動については、「家庭の理解の下、生徒が判断し、行うものであること」としつつ、一定の場合には、「生徒の政治的活動等について、これによる当該生徒や他の生徒の学業等への支障の状況に応じ、必要かつ合理的な範囲内で制限又は禁止することを含め、適切に指導を行うことが求められる」
としています。↓
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1363082.htm
しかし、教育基本法における「学校側」の政治的中立性という観点から、「生徒側」にここまで政治活動及び選挙活動の禁止ないし制限を行うことが求められるのか、そもそもかかる禁止ないし制限が生徒に対する「政治的教養」の教育に資するのか、冷静にかつ真剣に検討する必要があるのではないでしょうか。
選挙権年齢を引き下げることで、より若い人たちの意見も広く政治に取り入れることが選挙年齢引下げの目的であるとすれば、選挙活動や政治活動をタブー視するのではなく、むしろその門戸を広げることこそが、「政治的教養」を育み、ひいて政治に関する冷静かつ非暴力的・平和的な議論を醸成することにつながるのではないか、と私は思います。
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こたけひまわり法律事務所
弁護士 小山 明輝