小山 明輝

安心!…でも,ややこしい?:自筆証書遺言保管制度

1.自筆証書遺言保管制度が施行されます。

 今年(令和2年)7月10日から,「自筆証書遺言保管制度」が施行されます(予約受付は7月1日から)。

 簡単に言うと,自筆証書遺言,つまり「自分で書いた(ここ注意です)」遺言書を法務局で預かってくれる制度です。

 これにより,せっかく作った遺言を紛失するかも,あるいは誰かに廃棄・改ざんされるかも,などという不安から解消されます。

 また,自筆証書を保管している人(当該遺言を発見した相続人も同様)は,遺言者が亡くなった後,なるべく早めに家庭裁判所に提出して「検認」(要は,家庭裁判所に相続人全員が集まって遺言の存在を確認する手続き)の請求をする必要があります。

 しかし,法務局で遺言を保管してもらっていれば,「検認」の手続きは不要となります。

2.ご注意:「安心」にはなりますが,「簡単」にはなりません…。

 …と,ここまで書くと,自分で遺言を作成してみようかな,と思われる人も出てくるかもしれませんが,少しお待ちください。

 ご注意頂きたいのは,法務局では,遺言を「預かって」くれますが,自分の代わりに「書いて(作成して)」くれる訳ではありません。

 つまり,自筆,つまり遺言を「手書き」しなければならない,という手間は全く変わらないのです(財産目録に限って,必ずしも「手書き」する必要はありませんが,ページ毎の署名・押印が必要です。)。

 しかも,7月10日以降に手書きの遺言を書いて法務局に持っていけば直ぐに預かってもらえる,という訳でもなく,

 ① 「所定の様式」(A4用紙で,所定の余白を確保して,片面のみ記載など)で作成し,

 ② 来所する法務局(住所地など)に「事前予約」(最低,来所日の前々日まで)の上,

 ③ 自筆証書遺言のほか,事前に作成した申請書(法務省ホームページからもダウンロード可能)及び添付書類(本籍地記載の住民票など)等「必要書類」を(事前に)揃えて,

 ④ 遺言者本人が来所(代理人による申請不可)して,

保管の申請をする必要があります。

 その他にも,一定の手数料(保管申請は3900円)が必要,来所持,顔写真付きの身分証明書(マイナンバーカード,運転免許証など)の提示が必要,保管申請後,住所変更等があった場合には届出(郵送可,法定代理人による届け出可)が必要など,いくつかの注意点があります。

 しかも,保管時,法務局では「形式的要件(署名・押印の有無,加除訂正の方式の適否)」のチェックはしてくれますが「内容の有効性」については一切チェックしませんし,自筆証書遺言作成に関する相談にも応じて頂けません。

 つまり,遺言を「自分で手書きしなければならない」という手間は変わらない上,公的機関での保管を行う上での手続面・費用面での負担が増えているのです。

3.まとめ:あくまで私個人の感想ですが…

このように,自筆証書遺言保管制度が始まったとしても,なお,公正証書遺言との間では一長一短があり,一概にどちらが良いとは言い難い面があります。

 ただ,敢えて言えば,自筆証書遺言を作成する場合でも,できれば事前に(又は適宜),弁護士など専門家に相談されることをお勧めしたいところです。

 また,配偶者居住権の制度を利用する,法定相続分によらない遺産の分配を行う,相続財産が多種・多数・多額などの事情がある場合には,「相続をめぐる争いをできるだけ避ける(小さくする)」ため,弁護士など専門家のサポートを利用された上で,公正証書遺言を選択された方が良いのかな,と思います。

 ともあれ,これを機会にぜひ一度,相続・遺言についてお考え頂けると幸いです。

(弁護士 小山 明輝)

養育費,なにが変わった?~「新算定表」の影響~

1.はじめに:「新算定表」の発表

 家庭裁判所で「養育費」(婚姻費用も含む)の額を決める場合,いわゆる「算定表(標準算定方式・算定表)」が利用されていることは,ご承知の方も多いと思います。

 この算定表は,裁判官などで構成される「東京・大阪養育費等研究会」なる研究会が平成15年に発表し,定着したものでした(旧算定表)。

 しかし,時が経つにつれ,算定の元となった統計資料が実情に合わないのではないか,などの意見が高まった結果,2019年(令和元年)12月23日,いわゆる「新算定表【改定標準方式・算定表(令和元年版)】」が発表され,裁判所ウェブサイトにも掲載されました。

 今回は,この「新算定表」の発表による影響について,ざっくりと説明します。
 

2.「基本的な枠組み」は変わりません

 父母(夫婦)の収入の割合に応じて負担する,「按分」という考え方や,年収(総支給額)から公租公課や職業費などを控除して基礎収入を算定する,などと言った方式は変わっていません。

 したがって,「新算定表」においても,お子様の人数や年齢に応じた表をみれば,調停など裁判手続きになった場合に決められる養育費(婚姻費用)の額について,「おおよそ」の見込みが立ちます。
 

3.「統計資料」「制度」が更新されました

 他方,算定の基礎となる統計資料(職業費,特別経費,学習費などに関する資料)や所得税率や健康保険料率などの制度については,最新のものに更新されました。
 

4.2~3の結果,どうなる?

 その結果,養育費(婚姻費用)の負担割合を決める基礎収入(総収入に占める基礎収入の割合)が,

    ①給与所得者の場合 38~54%(旧算定表では,34~42%)

    ②自営業者の場合  48~61%(旧算定表では,47~52%)

給与所得者の場合
38~54%(旧算定表では,34~42%)

自営業者の場合
48~61%(旧算定表では,47~52%)

となりました。
 

5.その一方で・・・

 他方,生活費指数(大人を100とした場合の,子の生活費の割合)は,

    ①0~14歳 62(旧算定表は,55

    ②15歳以上 85(旧算定表は,「15~19歳」として,90

0~14歳 62(旧算定表は,55)

15歳以上 85(旧算定表は,「15~19歳」として,90)

 とされました。これは,平成15年当時と比べ,0~14歳については,教育費を考慮する前の生活費の割合が増えた一方,15歳以上については,国公立高等学校の学費が下がったことによります。
 

6.結論:養育費の額は・・・?

  適用される表で確認いただく必要がありますが,旧算定表と比べ,1~2万円程度増える場合もあれば,変動がない場合もあるようです。

 なお,塾の費用や大学進学に関する費用の負担については,別途,考慮・計算する必要がありますので,個別にご相談いただけると幸いです。
 

7.追記~注意点~

(1)「新算定表」の発表は,養育費(婚姻費用)の額を変更すべき事情変更には該当しない,と言われています。

 例えば,「旧算定表」時代に定めた養育費の額について,「新算定表」で計算したら1~2万円増えるとしても,「新算定表」が発表されたという事情「だけ」では,直ちに増額が認められるわけではない,ということです。

 したがって,既に決められた養育費を増額してもらいたいと考える場合,養育費を定めたときと比べ,「新算定表」が発表されたから,ではなく,収入の増減があった,お子様が進学した,などの理由が必要となります。

(2)養育費の支払義務の終期は,「未成熟子を脱する時期」とされています。

 「新算定表」が「0~14歳」と「15~19歳」ではなく,「0~14歳」と「15歳以上」とされたのは,このような理由からです。

 したがって,お子様が20歳に達すれば必ず養育費の支払義務がなくなる,という訳ではなく,大学に進学したなどの事情がある場合,個別に判断されます。

弁護士 小山 明輝

養育費以外にも離婚前に決めることがたくさんあります。

養育費以外にも離婚前に
決めることがたくさんあります。

その解雇,大丈夫ですか?~就業規則と懲戒処分(解雇)の基本的なおはなし~

1.就業規則,ありますか?

「職務怠慢(遅刻,無断欠勤,etc.)など問題のある従業員に対し,懲戒処分を下したい。」

会社(法人)か否かにかかわらず、雇用者の方々は残念ながらこのような事態に遭遇することも珍しくありません。

しかし、実は就業規則に懲戒の「事由」と「手段」を明記していないとそもそも懲戒処分を下せないということはご存じでしょうか。

時々、会社あるいは個人事業主の方から「就業規則がない」ということを耳にすることがありますが会社(事業所)の規律・秩序を守るという観点から就業規則は必須と言えます。

2.「明日から来なくて良い。」は通用しない:(懲戒)解雇は慎重に。

(1)解雇が問題となる事件は多い

 「従業員を懲戒解雇にしたら弁護士から『解雇無効(不当解雇)』を主張する
  内容証明郵便が届きました!」

 このような相談を受けることは,決して少なくありません。地方裁判所で申し
 立てられた労働審判のうち4割以上が解雇など(従業員としての)地位確認に
 関するものという統計もあります(弁護士白書2016年版)。

(2)懲戒解雇の高いハードル

 形式的には懲戒事由にあたるからと言って、直ちに懲戒処分が有効とは限りま
 せん。特に「懲戒解雇」は懲戒処分の中でも一番重いものであり、よほどの事情が
 なければ裁判で争われた場合「解雇権の濫用」として無効と判断されかねません。

(3)「普通解雇」にも要件がある

 一方、「懲戒解雇」の有効性を争われることを避けるため、30日分以上の平均
 賃金(いわゆる解雇予告手当)を払って、即日「普通解雇」すれば大丈夫かと
 言えばそうではありません。

 解雇をする場合には、労働契約法(第16条)において「客観的に合理的な」理由
 と「社会通念上」の相当性が求められおり、両者のいずれかが認められなければ
 やはり「解雇権の濫用」として無効となります。

 解雇が無効となる場合、雇用主が「問題がある」と考えた従業員の職場復帰、
 あるいは退職するとしても一定の損害賠償金や慰謝料などの支払いを求められる
 ことになります。

3.afterよりもbefore

  このように、従業員の解雇は事後的にトラブル・紛争になるリスクを抱えています。
 リスクの予防ないし回避、あるいは「最小化」という観点から事前の相談を強く
 お勧めします。

(弁護士 小山 明輝)

1.就業規則,ありますか?

「職務怠慢(遅刻,無断欠勤,etc.)など問題のある従業員に対し,懲戒処分を下したい。」

会社(法人)か否かにかかわらず、雇用者の方々は残念ながらこのような事態に遭遇することも珍しくありません。

しかし、実は就業規則に懲戒の「事由」と「手段」を明記していないとそもそも懲戒処分を下せないということはご存じでしょうか。

時々、会社あるいは個人事業主の方から「就業規則がない」ということを耳にすることがありますが会社(事業所)の規律・秩序を守るという観点から就業規則は必須と言えます。

2.「明日から来なくて良い。」は通用しない:(懲戒)解雇は慎重に。

(1)解雇が問題となる事件は多い

 「従業員を懲戒解雇にしたら弁護士から『解雇無効(不当解雇)』を主張する内容証明郵便が届きました!」

 このような相談を受けることは,決して少なくありません。地方裁判所で申し立てられた労働審判のうち4割以上が解雇など(従業員としての)地位確認に関するものという統計もあります(弁護士白書2016年版)。

(2)懲戒解雇の高いハードル

 形式的には懲戒事由にあたるからと言って、直ちに懲戒処分が有効とは限りません。特に「懲戒解雇」は懲戒処分の中でも一番重いものであり、よほどの事情がなければ裁判で争われた場合「解雇権の濫用」として無効と判断されかねません。

(3)「普通解雇」にも要件がある

 一方、「懲戒解雇」の有効性を争われることを避けるため、30日分以上の平均賃金(いわゆる解雇予告手当)を払って、即日「普通解雇」すれば大丈夫かと言えばそうではありません。

 解雇をする場合には、労働契約法(第16条)において「客観的に合理的な」理由と「社会通念上」の相当性が求められおり、両者のいずれかが認められなければやはり「解雇権の濫用」として無効となります。

 解雇が無効となる場合、雇用主が「問題がある」と考えた従業員の職場復帰、あるいは退職するとしても一定の損害賠償金や慰謝料などの支払いを求められることになります。

3.afterよりもbefore

  このように、従業員の解雇は事後的にトラブル・紛争になるリスクを抱えています。リスクの予防ないし回避、あるいは「最小化」という観点から事前の相談を強くお勧めします。

(弁護士 小山 明輝)

~変わる強制執行?:民事執行法改正のおはなし~

1.知っていますか?民事執行法の改正

最近,改正相続法や事業承継税制に関するお話を耳にすることが増えている印象ですが,実は「民事執行法」(預貯金の差押えや不動産競売など「強制執行」に関する法律)の改正も行われていたこと,ご存じでしょうか。

ちなみに成立は令和元年5月10日,施行は「交付日(5月17日)から1年を超えない範囲内において政令で定める日」とされています。

つまり,遅くても来年5月17日までには運用が開始されるということです。

2.何が変わる?改正のポイント

(1)債務者以外の第三者からの情報取得手続き

   一定の要件の下,裁判所を通じ,以下の情報が取得できるようになります。

     ① 金融機関から:預貯金や上場株式・国債等に関する情報

     ② 登記所から :土地・建物に関する情報

     ③ 市町村・日本年金機構等から:給与債権(勤務先)に関する情報

① 金融機関から:
預貯金や上場株式・国債等に関する情報

② 登記所から :
土地・建物に関する情報

③ 市町村・日本年金機構等から:
給与債権(勤務先)に関する情報

 もっとも,③については,「養育費等の債権」や「生命・身体の侵害による損害賠償請求権」を有する場合に限られます。

(2)財産開示制度の見直し

① 財産開示の申立てが可能な債権者が拡大されます。例えば,強制執行が可能な書面(「執行力のある債務名義」と言います。)が,「公正証書(により金銭の支払いを取り決めた場合)」や「仮執行宣言付き支払督促」の場合も利用が可能となります。

② 債務者への「ペナルティ」が強化されます。

(3)その他

 不動産競売における暴力団員の買受け防止方策の新設や,国内における子の引渡しに関する制度の整備,などがあります。

3.債権回収に関するご相談もお受けしています!

 事業者の方にとって,「債権回収」に関する悩み・問題はあって欲しくないものですが,なくならないものです。

 取引先が売掛金を払ってくれない,など「債権回収」でお困りのことがあれば,できるだけお早めに,「こたけひまわり法律事務所」へご相談ください。

(弁護士 小山 明輝)

債務整理についてはこちら

相続が変わります!~運用開始(施行)時期と「遺留分」のおはなし~

1.新しい相続法

 いわゆる「相続法」が改正され,段階的な施行(平たく言うと「運用開始」でしょうか。)がはじまっています。

 施行時期は,大まかに分けると次のとおりです。

  • 自筆証書遺言の方式の緩和
    2019年1月13日。つまり,すでに施行されています!
     
  • 配偶者の居住の権利(配偶者居住権)に関する規定
    2020年4月1日。とても重要な新設制度なので,要チェックです!
     
  • 法務局における遺言書の保管等に関する法律
    2020年7月10日。こちらも来年です。
     
  • それ以外
    2019年7月1日。つまり,もうすぐです!
     

2.「遺留分」制度が変わります

 「いりゅうぶん」と読みます。多少の誤解をおそれずに平たく説明すると,「法律上,相続人に最低限保証されている相続分」でしょうか。

 この遺留分制度が,次のとおり変更されました。

(1)被相続人による生前贈与や遺贈で遺留分を侵害された方は,「遺留分減殺請求」という方法で,相続財産から自分の遺留分に応じた「財産」の引き渡しを求めることができ「ました」。

「財産」と書いたのは,これまでは必ずしも金銭的な請求に限られなかったからです(例えば侵害された財産(利益)が不動産なら持分,株式なら株式。)。

 しかし,「2019年7月1日以降に発生した相続」については,「金銭」の支払請求に限られます。

 また,請求された側については,負担する額の全部または一部の支払いについて,期限の許与(猶予)を求めることができる制度も設けられました。

 これら制度により,例えば事業承継のために必要な株式を相続する場面で,悩みが緩和される,かもしれません。

(2)さらに,相続人に対する生前贈与についても遺留分減殺請求の対象となるのですが,これまでその「さかのぼり期間」の制限がありませんでした。例えば,20年以上前におこなった相続人に対する贈与も遺留分減殺請求の対象となり得ました。

 しかし,今後の改正により,その「さかのぼり期間」が相続開始前10年間に限定されることとなりました。

 そこで,今後は,事業承継のための早めの対策が,相続に関する身内の争いを回避する上で,より一層重要となりそうです。

相続に関してお悩みの方はこちら

(弁護士 小山 明輝)

e(イー)ネ! ~民事裁判IT化への検討が始まっています!~

1.(民事)裁判にもIT化の波が。

 訴状や大量の証拠(書証)を,裁判所及び被告の人数分だけ紙面で用意し,収入印紙を貼って,郵便代(予納郵券)とともに送る,裁判が始まると期日ごとに裁判所に出廷する,etc.…。

 IT,IoTなどの言葉があふれかえる現代において,日本の裁判は未だにアナログ的です。

 しかし,ここに来てようやく,裁判(と言っても民事裁判に限ってですが)手続きにもIT化の波がやってきました。

  一昨年6月に閣議決定された「未来投資戦略2017」の中で,「裁判に係る手続き等のIT化を推進する方策について速やかに検討し,本年度中に結論を得る。」とされたことを受け,昨年の3月,「裁判手続き等のIT化に向けた取りまとめ」が発表されました(裁判手続き等のIT化検討会)。

  なお,最高裁判所長官の「新年のことば」でも民事訴訟手続きのIT化について触れられていました(裁判所ホームページ)。

2.3つの「e」。

 「取りまとめ」では,IT化の方向性として,「3つe」が示されています。

(1)e提出(e-Filing)

   主張(訴状など)・証拠のオンライン提出や手数料の電子納付・電子決済などに関するものです。

   実現すれば,大量の書類を準備する手間が省けたり,郵便代等裁判費用の削減につながったりする,かもしれません。

(2)e事件管理(e-Case Management)

   主張・証拠などのオンラインアクセスや,裁判期日のオンラインでの調整などに関するものです。

   実際に裁判に携わらないと分かりづらいですが,これが実現すると,弁護士的にはとてもとても助かります…。

(3)e法廷(e-Court)

   ウェブ会議やテレビ会議の導入・拡大などに関するものです。

   これは,機材さえ整えば,法的にも技術的にも直ぐに実現できるような…。

3.e(イー)相談?

  さて,我が身を振り返ると,相談は相変わらず,「事務所での面談」が原則。

  クラウド上で契約書等の管理を行えるサービスを提供している業者さんもありますが,さらに「ウェブ相談」など,「弁護士業のIT化」も真剣に検討する時期に来ているようです。

  (弁護士 小山 明輝)

今さらな「ドラレコ」ばなし。

1.「ドラレコ」,付けていますか?

  ドライビングレコーダ(車載カメラ),通称「ドラレコ」。現在は,多機能なものもあり,用途も「観光記録」のため,という方もいらっしゃるようですが,やはり,万一の交通事故に備えて(責任の所在を明らかにするため),という方が多いのではないでしょうか。

  ところで,皆さま,自車にドラレコ,設置していますか?

2.弁護士が実感する「ドラレコ」のありがたさ

(1)例えば,交通事故事件(損害賠償)をお受けすると,時々,運転手の「双方」が「自分が交差点に進入したときは,青信号だった」と主張し合う,という冗談みたいな事件に当たることも「珍しくありません」。

(2)当然,どちらか一方が「事実と異なる」主張をしているのですが,裁判では,損害賠償を請求する側が,相手方の過失(黄,又は赤信号での進入)を証明しなければなりません。

(3)この点,目撃者など第三者的な証人がいれば良いのですが,そういう「恵まれた」ケースは少なく,立証は意外に難しくなります。立証できないと,真実は,ご自身の進行方向が「青色」だったとしても,裁判には負けてしまうのです。   

(4)しかし,「ドラレコ」に進入時の信号の色を含めた事故当時の状況が記録されていれば,相手方の過失を証明することが簡単になります。

3.転ばぬ先の「ドラレコ」

  交通事故は,運転に気を付けていれば100%回避できる,というものではありません。

  私生活やビジネスでお車を運転される機会の多い方は,万が一に備えて,「ドラレコ」の設置を検討されては如何でしょうか。

「共感する」ということ~クレーム対応研修の講師を務めました~

「クレーム処理のことを考えると,夜も眠れない。」

「『しっかり話を聴いて,共感して下さい。』と教えられたけど,とても共感できない。」

…皆さまの勤務先,あるいは経営されている会社・法人で,こんなことを聞いたり,あるいは実際にそのような体験をされたりしたことはないでしょうか。

飯塚社会福祉協議会様からお声かけ頂き,3月13日(火),「『共感』から始めるクレーム対応」というテーマで,クレーム対応研修の講義を行いました。

当日は,福祉施設の職員さんや自治体等の職員さんなど,約100名の方がご出席されました。

今回は,講義のエッセンスを幾つかご紹介します。

1.「クレーム」とは。

一口に「クレーム」と言っても,本来的な意味である「(正当な)請求」から,「complaint」

(不平・不満),さらには不当・不法な要求まで様々な意味で使われています。

これらをひとまとめにして「ラベリング」していることが,「クレーム」に対するネガティブなイメージにつながっているのではないでしょうか。

2.「共感」とは。

「クレーム対応」では,相手の方のお話を「傾聴」し,「共感」することが大切だと言われています。

もっとも,「クレーム対応」に関する書籍では,「同調」「同情」,あるいは「相手の気持ちの評価」にあたる言葉が「共感」の意味で用いられている場合があります。

縁あって学んでいる「NVC(Nonviolent Communication)」(非暴力的コミュニケーション)では,「共感」は「観察(observation),感情(feeling),必要としていること(needs),要求(request)」の4つの要素から成り立っている,と説明されています。

3.「自分への共感」

ところで,自分自身が苦しく,「しんどいなぁ~」と感じているとき,その気持ちを抑えて,「自分が対応しなければ」と考え,相手方の不平・不満を聴くのは,本当に大変なことです。

NVCでは,「自分への共感」も大切,と考えます。

自分自身の苦しみや悲しみ,後悔といった感情を無理に抑えつけず,しっかりと認め,許してあげましょう。 

4.「反応」の選択

ところで,「NVC」の学びの中で印象に残っている言葉に,

「人の言動は,私たちの感情を『刺激』するかもしれないが,『原因』となることは決してない。」

「自分の感情には100%責任があるが,人の感情には責任がない,という自覚を持つ。」

「と同時に,人が必要としているものを犠牲にして自分が必要としているものを満たすことができない。」

というものがあります。

つまり,相手の方の「不平」や「不満」,あるい「嘆き」に対し,同調するか,逆にイライラして反発し話を遮るか,それとも冷静にしっかりとお話を聴くか,その選択は「自分で決められる」のです。

相手の方の怒りや悲しみを,自分自身が引き受けて抱え込み,苦しむ必要はないのです。

5.「マインドフルネス」とは。

仕事中のミスや,クレーム対応をしたのは「過去のこと」です。

「明日,仕事に行きたくないなぁ」というのは,「将来のこと」です。

晩御飯を食べている,テレビを観ている,お風呂に入っている,まさに「今」,貴方の

心の平穏や身体の安全を脅かす具体的な「何か」は存在するでしょうか…?

「マインドフルネス」とは,まさに「今」「そのとき」の自分を注意深く見つめ,自分に「気づくこと」です。その実践として,「呼吸(深呼吸)」や「瞑想」があると,私は考えます。

6.「共感」の効力:NVCのススメ

「NVC」に基づいた「共感(によるコミュニケーション)」と,「マインドフルネス」(気づき)の実践を続けていくと,いずれ,「クレーム対応」へのネガティブなイメージや精神的なストレスが小さくなっていく,と私は強く信じています。

「クレーム対応」に困難を感じ,悩まれている方は,ぜひ一度,NVCの学びを体験されてはいかがでしょうか。

(弁護士 小山 明輝)

「自動運転」中に交通事故を起こしたら,どうなるの?

 「自動運転」の開発が進む中,交通事故案件を比較的多く扱う者として,常々気になっていたことがありました。

 それは,「自動運転中に事故を起こした場合,誰が賠償責任を負うのか。」ということです。

 ちょうどそんなとき,2018年1月27日(土)の日本経済新聞朝刊に,「自動運転 導入へ法整備」という見出しの記事が掲載されました。

 一口に「自動運転」と言っても,ハンドル操作またはアクセル・ブレーキの自動化のみ,というレベルから,すべての運転を自動化(人は運転に関与しない)というレベルまで幾つかの段階に分けられるそうです。

 記事によると,今回の「法整備」は,いわばその「中間」の

 ○環境・交通状況など一定の条件ですべての運転を自動化。人はシステムの要求に応じて関与。

 ○場所など一定の条件下ですべての運転を自動化。人は関与せず。

というレベルを対象としたものだそうです。

 そして,肝心の賠償責任については,

 ○事故の賠償責任は,まず所有者・運転者が負う。

とする現在の制度を維持しつつ,「システムの不備」が事故原因となった場合は,保険会社が(支払った)保険金額の一部負担を自動車メーカーに請求できるようにする,ということを検討しているようです。

 もっとも,実際の事故においては,責任の所在を検討するための判断材料(事故当時の記録等)が必要となります。

 そこで,

 ○自動走行の時間帯や位置情報,運転手またはシステムによるハンドルさばきやアクセル・ブレーキ操作が記録できる「記録装置」の設置義務付け,さらには

 ○記録をもとに,自動運転車の事故原因を解明する新たな国の機関を創設すること

も検討されている,とのことです。

 このうち「システムの不備」に関してですが,自動車を含めた「製造物」の欠陥に基づく賠償については,「製造物責任法」の適用が問題となります。

 しかし,「欠陥」の存在を証明するための証拠収集は,なかなかに(控えめな表現かもしれません)大変です。

 「記録装置」の設置や事故原因を解明する機関の設置は,このような問題を意識したものと思います。

 もっとも,記録装置自体に欠陥があり,正常に作動しなかった,あるいは正確に記録できなかった場合はどうするのか,あるいは,事故により記録装置が破損して記録が消失する,という事態は発生しないのか,国の機関による判断の正確性はどう担保されるのか,などなど新たな課題も出てきそうな気がします。

 「自動運転」の開発だけでなく,これに伴う法整備の展開にも,要注目です。

(弁護士 小山 明輝)

 

「シューカツ(終活)」とは?~終活セミナーの講師を務めました~

「最近,『終活』という言葉をよく耳にするけど,何だろう…?」

「『終活』って,何をすればよいの…?」

「…という訳で,法律の専門家という立場から,『終活』についてお話してください!」

…小竹町商工会女性部の方から,そんなご依頼を受けまして,さる11月17日,同会会館にて

終活」と「相続」をテーマにお話しさせていただきました。

ここでは,「相続」のことは割愛して「終活」のご説明をいたします。

Q.「終活」とは?

「Wikipedia」では,「人生の終わりのための活動」の略で,人間が人生の最期を迎えるにあたって執る様々な準備やそこに向けた人生の総括を意味する言葉,と紹介されています。

私なりの理解によれば,ポイントは2つ。

1.もしものための準備

2.人生の総括

です。

1.もしものための準備

(1)法律家としては,まず,「相続」について考えて頂きたいところです。そのための準備と言えば,やはり「遺言」でしょうか。

(2)それから,ご葬儀のことも気になります。

(3)そして,そんなとき,「誰に連絡して欲しいか」ということも伝えられるようにしておくと安心かもしれません。

(4)さらに,身の回りの物品などの整理。この中には,「フェイスブック」などSNS上の情報をどうするか,という問題も含まれます。

(5)忘れてはいけないのが,「人生の最期を迎える前」に,認知症などで判断能力が衰えたときはどうするか,ということも考える必要があります。具体的には「任意後見制度(契約)」の利用などが挙げられます。

…などなど,「もしものための準備」には,考えておくべきこと,整理しておくべき情報がたくさんあります。

2.人生の総括

終活」は,ただ「もしものとき」のことを考えるだけではありません。

これまでの人生をゆっくりと振り返る機会にもなります。

忘れられない出来事や思い出・人,長い時間をかけてやり遂げたことややり残したこと,

今まで心の中に秘していたけど伝えたいこと…

こういった様々なことを,「人生の総まとめ」として整理することも「終活」の一つです。

お時間とやる気のある方は,「自分史」を編纂するのも楽しいかもしれません。

3.ところで…「エンディングノート」の活用と注意点

終活」を手探りで始めるのは,大変な作業です。

そこで活躍する(と思われる)のが「エンディングノート」と呼ばれている冊子の数々。

終活」のために検討すべきことや,必要な情報が整理して記載できるようになっていて,「終活」作業に役立つものです。

ただし,次の点にご注意を。

(1)「エンディングノート」として作成されたものは,ご自身の「すべて」が書かれていると言っても過言ではありません。なので,

☑ 管理には十分ご注意ください。

☑ その一方で,「もしものとき」にそのノートがないと意味がありません。もっとも信頼できる人には,その存在を知らせておきましょう。

(2)「エンディングノート」≠「遺言」

「エンディングノート」は,相続のことを考えるあたり,自身の財産を整理して記載できるので役立ちます。もちろん,「遺言」を作成する「準備」のためにも利用できそうです。

しかし,「遺言」は,法律(民法)で定められた方法に従って作成しなければなりません。

例えば,直筆で作成する場合(自筆証書遺言),手書きでないとダメ,署名・押印はもちろん,年月日までしっかりと書かないといけない(○年〇月「吉日」はNG)などのルールがあります。

そこで,「エンディングノート」とは別に,「遺言」を作成する必要がありますので十分ご注意を。

なお,「遺言」作成にあたっては,「遺留分」を始めとして,法的に検討すべき事項が幾つかあります。

こたけひまわり法律事務所では,「相続」,「遺言」に関するご相談もお受けしております。

終活」の一貫として,遺されたご家族が「相続」で争うことを予防するためにもぜひ,「遺言」作成についてご相談下さい。

(弁護士 小山 明輝)

遺言書についてのご相談はこちら